大腸癌患者さんにおいてBRAF V600E変異は約10%にみられ、右側原発腫瘍および散発性マイクロサテライト不安定性(MSI)大腸癌と関連が指摘されており、また予後不良であるとされています。
BRAF V600E変異では、BRAFの600番目のアミノ酸がバリン(V)という必須アミノ酸で、これがグルタミン酸(E)に変異すると、増殖の命令が出し続けられ、がんが無秩序に増殖し続けることになります(下図の左から2番目)。V600E変異があるとBRAFの上流にあるRASによる活性化を受けなくても常に単量体で活性化が認められるとされています。このBRAF V600E変異によるがんの増殖経路に着目して開発されたのがBRAF阻害薬です。作用機序をねんど工房「TAKUMI」で作成しました。
BRAF阻害薬をを単独で投与した場合(上図の左から3番目)、ERK1/2のリン酸化が抑制されることで急速にEGFRの再活性化が起き、さらにBRAFは介さずRASおよびCRAFを通したシグナル経路によりMAPKが活性化されたり、細胞分裂に関わるMEK遺伝子が上流のRAS遺伝子などの機能を抑えていることまで障害されるため、かえってがんが大きくなったり、別のがんが生じたりしやすいことがあるとされています。
そこでBRAF阻害薬①とMEK阻害薬②を併用した治療法が検討されました。国際共同第3相試験(BEACON CRC試験)についてご紹介します。、1次治療、2次治療後に進行したBRAFV600E変異を有する治癒切除不能な進行/再発の結腸/直腸がん患者を対象にBRAF阻害薬(エンコラフェニブ)+MEK阻害薬(ビニメチニブ)+抗EGFR抗体(セツキシマブ)併用療法群(3剤群)とBRAF阻害薬(エンコラフェニブ)+抗EGFR抗体(セツキシマブ)併用療法群(2剤群)とイリノテカンとセツキシマブを含む併用療法群(対照群)とで、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)を検証した試験です。
OSは、3剤併用群が対照群に比して有意に延長を示しました(9.0ヵ月vs. 5.4ヵ月、ハザード比[HR]=0.52、95% CI: 0.39-0.70、p<0.001)。また、2剤併用群と対照群との比較においても、2剤併用群で有意なOSの延長を認めました(8.4ヵ月vs. 5.4ヵ月、HR=0.60、95% CI: 0.45-0.79、p<0.001)。
治療薬の投与期間は3剤併用療法群で21週間、2剤併用療法群で19週間、対照群で7週間でした。相対用量強度は3剤併用療法群で、エンコラフェニブ 91%、ビニメチニブ 87%、セツキシマブ 91%、2剤併用療法群で、エンコラフェニブ 98%、セツキシマブ 93%でした。
Grade 3以上の有害事象は、3剤併用群で58%、2剤併用群で50%、対照群で61%に認められ、有害事象による治療中止は各群それぞれ7%、8%、11%との記載があります。
3剤併用群で頻度の高いGrade 3以上の有害事象は、下痢(3剤併用群10%、2剤併用群2%、対照群10%)、腹痛(3剤併用群6%、2剤併用群2%、対照群5%)、悪心(3剤併用群5%、2剤併用群<1%、対照群1%)でした。3剤併用群ではMEK阻害薬に特徴的な漿液性網膜症(12%)および左室不全(4%)が認められたが、過去の報告と同程度の頻度であり、休薬および投与量調整により治療の継続が可能であったと記載されています。
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