各レジメンや抗がん剤ごとの悪心・嘔吐のリスク、患者さんのリスク要因に応じて、支持療法を実施したにもかかわらず、遅発性の悪心・嘔吐や突出性の悪心・嘔吐が発現することがあります。こういった状況こそ薬剤師の関わりどころです。がん診療ガイドライン│制吐療法 (jsco-cpg.jp)には、クリニカルクエスチョンとしてCQ6「突出性悪心・嘔吐をどのように治療するか」の項目があります。ガイドラインには、「作用機序の異なる制吐薬を複数、定時投与する。また、5-HT3受容体拮抗薬を予防に使用した場合、予防に用いたものと異なる5-HT3受容体拮抗薬に変更する。(推奨グレードB)」と記載されています。
突出性の悪心・嘔吐に対する薬物療法
5HT3受容体拮抗薬以外で悪心・嘔吐を改善させる薬物:ドパミン受容体拮抗薬(メトクロプラミド,ハロペリドール),副腎皮質ステロイド,ベンゾジアゼピン系抗不安薬(ロラゼパム,アルプラゾラム)などが報告されている。
進行がん患者における悪心・嘔吐に対する制吐薬のシステマティック・レビューでは,ランダム化比較試験においてメトクロプラミドがプラセボよりも優れており,5-HT3受容体拮抗薬であるオンダンセトロンとメトクロプラミドは同等の効果であった。しかし,奏効率は悪心に対し23~36%,嘔吐に対し18~52%といずれも低率であった1)。
高度または中等度リスクの薬物療法を施行した(96 名)後に悪心・嘔吐をきたした39 名を対象に行った,突出性悪心・嘔吐に対する前向きのパイロット試験では,プロクロルペラジンを使用した24 名のデータを検討した結果,投与4 時間後の悪心スコアは平均75%減少した2)。
高度リスクの薬物療法を施行した後に突出性悪心・嘔吐をきたした患者を対象に,オランザピン(10 mg 1 日1 回3 日間)またはメトクロプラミド(10 mg 1 日3 回3 日間)を投与した二重盲検ランダム化試験では,72 時間の観察期間中にオランザピン群が有意に悪心・嘔吐を抑制した3)。また,オランザピンのCINV に対するシステマティック・レビューでは,突出性悪心・嘔吐に対しての有効性が示されている4)。NCCN ガイドライン2017 やASCO ガイドライン2017 ではオランザピンが予防投与されていなければ使用を検討すること,すでに使用していればその他の作用機序が異なる薬剤を複数併用すること,また必要時投与ではなく定時投与を行うことが勧められている。
5-HT3受容体拮抗薬については,予防に用いたものと異なる5-HT3受容体拮抗薬を使用する報告がある。高度リスクの薬物療法を行い,オンダンセトロン8 mg(静注)とデキサメタゾン10 mg(静注)を使用した後に悪心・嘔吐をきたした患者を対象に,そのまま治療を続ける群とグラニセトロン3 mg(静注)とデキサメタゾン10 mg(静注)に変更する群で二重盲検ランダム化比較試験を行った報告では,悪心・嘔吐の完全制御割合をみるとグラニセトロンに変更した群で有意に高かった(5% vs. 47%)5)。
第2 世代の5-HT3 受容体拮抗薬であるパロノセトロンは,急性嘔吐の予防だけでなく遅発性嘔吐の予防にも有効であることが報告されている(遅発期嘔吐完全制御割合: グラニセトロン群44.5% vs. パロノセトロン群56.8%)6)。
次回のがん薬物療法施行前には,悪心・嘔吐の予防的投与が無効または不十分であったその原因について詳細検討を行う。その際,悪心・嘔吐の原因ががん薬物療法以外(→CQ15 参照)なのか否かを確認する。次回の抗がん薬を使用する際は,より高い催吐性リスクに準じて予防投与を行う。がん薬物療法の目的が症状緩和である場合は,次回の抗がん薬は減量するか催吐性リスクの低い抗がん薬への変更を考える。
(制吐薬適正使用ガイドライン2015 年10 月(第2 版)一部改訂版(ver.2.2)より引用)
1) Glare P, Pereira G, Kristjanson LJ, et al. Systematic review of the efficacy of antiemetics in the treatment of nausea in patients with far-advanced cancer. Support Care Cancer. 2004; 12: 432-40. | |
2) Jones JM, Qin R, Bardia A, et al. Antiemetics for chemotherapy-induced nausea and vomiting occurring despite prophylactic antiemetic therapy. J Palliat Med. 2011; 14: 810-4 | |
3) Navari RM, Nagy CK, Gray SE. The use of olanzapine versus metoclopramide for the treatment of breakthrough chemotherapy-induced nausea and vomiting in patients receiving highly emetogenic chemotherapy. Support Care Cancer. 2013; 21: 1655-63. | |
4) Chiu L, Chow R, Popovic M et al.Efficacy of olanzapine for the prophylaxis and rescue of chemotherapy-induced nausea and vomiting (CINV): a systematic review and meta-analysis.. Support Care Cancer. 2016; 24: 2381-92. | |
5) de Wit R, de Boer AC, vd Linden GH, et al. Effective cross-over to granisetron after failure to ondansetron, a randomized double blind study in patients failing ondansetron plus dexamethasone during the first 24 hours following highly emetogenic chemotherapy. Br J Cancer. 2001; 85: 1099-101. | |
6) Saito M, Aogi K, Sekine I, et al. Palonosetron plus dexamethasone versus granisetron plus dexamethasone for prevention of nausea and vomiting during chemotherapy: a double-blind, double-dummy, randomised, comparative phase III trial. Lancet Oncol. 2009; 10: 115-24. |
オランザピンは、ドパミン、セロトニン、ヒスタミン、ムスカリンの複数のレセプターに対する作用を有するため、制吐薬としての効果を発揮すると考えられています。オランザピンには食欲増進作用があり、嘔気の緩和だけでなく、食欲不振の改善がみられることがあります。投与初期にはめまい、起立性低血圧が現れることがあることをしっかり伝えましょう。
ガイドラインをもとに実際の対応方法のまとめ
遅発性の悪心・嘔吐が発現した場合
現在、発現している症状に対して
- メトクロプラミド10-20mg/回を4-6時間毎内服または静注
- ドンペリドン5~10mg/回を4-6時間毎内服または坐剤として挿入
- デキサメタゾン4~16mg内服または静注、連日
- プロクロルペラジン10mg/回を6時間毎内服
- オランザピン 5-10mg/回を1日1回内服、連日
- H2ブロッカーやPPI(胸やけや消化不良症状があれば)
次回の支持療法について
より高い催吐性リスクに準じて予防する
- アプレピタントの追加、投与期間を延長する(5日間まで)
- デキサメタゾンやメトクロプラミド、プロクロルペラジンの追加、投与期間の延長
- オランザピンの追加(糖尿病患者には禁忌)
- ロラゼパム、アルプラゾラム、エチゾラムなど抗不安薬の追加
ただし、メトクロプラミド、プロクロルペラジン、オランザピン、ロラゼパム、アルプラゾラム、エチゾラムは自動車運転禁止となっているため、外来化学療法当日は患者に自分で自動車を運転しないよう指導が必要です。
抗がん剤以外の要因によっても悪心・嘔吐が起こること悪心・嘔吐への対応(1)も考慮して、対応を検討すれば症状の改善につながると思います。
日常生活での工夫として
食事については、吐き気・嘔吐がある場合には、無理して食べる必要はありません。食べられるものを食べられるだけ口にしましょう。
何日か食事が取れないことがあっても過度に心配せず、脱水予防のためにできるだけ水分を取ることを心がけるよう指導しましょう。
(2021年6月5日更新)
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